その土地に古くから伝わる食には、その地域に無くてはならない、人々が求め続ける理由がありました。今回は城下町米沢で、ずっと愛されている銘菓「時雨の松」について、松嶋屋菓子店18代目の高橋一平さんにお話を伺います。
作り手の思い
江戸時代後期に創業し、305年経ちました。うちは和菓子と洋菓子とご提供しております。
その歴史の中で、ずっとつくられているお菓子というものはありますか?
はい、創業当初からつくられている「しぐれの松」があります。
時雨の松というと、米沢市以外ではあまり聞いたことがありません。どんなお菓子ですか?
特徴としては、黄な粉と水飴、砂糖の3種類のシンプルな材料でつくった、素朴な味のお菓子になります。「しぐれの松」という仮名を上杉鷹山公につけていただいたと聞いております。このお菓子を見て、松に雨がかかっているようだとおっしゃたのではないかと、推測されます。
昔は贈答用として使用されていましたね。今だと、お抹茶のお菓子、干菓子として使用されることも多いです。
米沢市内、他のお店でも「しぐれの松」がつくられていますが、松嶋屋菓子店の特徴というのはありますか?
昔から、素材と製法を変えていないというところでしょうか。
ですと、今味わっているおいしさは、当時の人々が感じていたものと同じということなんですね。時を経て今でも味わえるって、うれしいですね。
素材が3つしかなく、ここに水分を加えてつくり上げていくのですが、この水分は季節によってだいぶ変わってきます。乾燥していたり、じめじめしていたり。その日その日で水分量を見極めています。
今回は米沢だけではなく、県外の方にもご注文から発送いただけるということなのですが、日持ちはしますか?
それは保存食文化の歴史がある米沢ならではですね。常温のまま持ち運びも可能ですし、重くもないので、誰かに贈るのにもぴったりですね。先ほどお茶会の干菓子として多く使用されるとおっしゃっていましたが、高橋さんとしては、こんな風に食べてほしいというのはありますか?
そうですね、ワイワイ食べるというよりは、お抹茶などと、静かにゆっくりと味わっていただくのがいいかもしれませんね。開けると松が雨に濡れているようなデザインになっております。半分まで切れ目が入っています。後はやわらかいので折って食べてください。
材料は青畑きな粉とおっしゃっていましたが、こちらは2色になっていますね?
そうなんです。一般的な焦がしきなこと、米沢ならではの青畑きな粉の2段になっています。食べ方は食べられる方のお好みです。重ねたままでも、別々でも。大きさもお好みで切り分けてお召し上がりください。もちろん甘いので、かぶりつくようなものではありませんが(笑)。
先ほど、お抹茶にとおっしゃっていましたけれども、珈琲にも合いそうです。仕事の合間に一息、というのも良さそうじゃないですか?
そうですね。様々なシーンでお召し上がりいただきたいです。
材料はきな粉、ということですが、いただくとお豆の味、香りがしっかりしますね。上品な甘さで。味わう程に、やっぱりお茶の席にはぴったりだなと感じます。
私も長年携わりながら、素材を少なくシンプルにつくられている理由が、そこにあるのかなと、感じておりました。
お店に掲げられた掛け軸で、お店の創業の年は分かっているのですが、詳しい歴史は分からないのです。昔米沢で大火が2回あり、お店は無事だったのですが、家に伝わる文書を保存していたお寺が焼けてしまいました。お店は以前米沢市の西大通りにあって、現在の松が岬に移ったと聞いております。
そんなに古いものはありません。木型ですと100年ぐらい前のものは普通に今でも使用しています。
もちろん全てではありません。しぐれの松は使用頻度が高いため、更新されて新しくなっています。でも大きさなどは昔と変わらない寸法でつくってもらった木型です。いろいろな型がありますが、上杉神社の催事では、竹と雀の家紋の丸いの木型で作ったしぐれの松が提供されるんですよ。
高橋さんは、18代目ということですが、「しぐれの松」を伝承される際に、注意点などはあったものですか?
製法やレシピ、配合は外部に漏らすなとは言われましたね。真似していただいても構わないのですが、うちのレシピは守っていきなさいと伝えられています。
今後こんな風にしていきたいという展望はありますか?
「しぐれの松」は昔ながらの味で、とてもおいしいです。しかし、今流行っている生時雨みたいな現代風にアレンジしてみたいな、とも思っています。
それは鷹山公もびっくり!私は全く想像がつかないのですが、どんなお菓子になるのでしょうか?
まだ構想段階ですので(笑)今流行ってますよね、生キャラメルとか、生クリーム大福みたいな感じで。そういうのがあっても面白いかな、と思います。
新しいしぐれの松が登場すると、これまで食べて来られた方も、また食べたことのない世代も、新たに注目するきっかけになりますね。楽しみです。ぜひ完成させてください。お店の方は今後どうしていきたいですか?
これからも地元密着で、変わらずお菓子を提供していきたいと考えています。また、お店でしか買えない和菓子、洋菓子がありますので、ぜひお店にも遊びに来てほしいですね。
以前、お店で地元の「うこぎ」を配合した「うこぎドーナツ」を購入したことがあります。こちらも素朴な味わいで、子どもにも大好評でした。
うこぎドーナツは、イベントでの出展や、催事用で販売している菓子で、お店に出ることはなかなかありません。そんな風に、その時期その季節にしか食べられないお菓子がたくさんありますよ。
地元ならではの様々なお菓子、うれしいですね。これからも米沢をお菓子の力で盛り上げていっていただきたいです。今日はありがとうございました。