今では貴重となった「いちからから手作り」の醤油。地元で愛され続ける「本物の味」。
「おたくの醤油を使ってから、他の醤油が食べれなくて」というリピーターの熱い声も多い「マルカワしょうゆ」について、
今野味噌醤油醸造店6代目の今野良輔さんにお話を伺いました。
作り手の思い
今野味噌醤油醸造店「マルカワしょうゆ」へのこだわり
まずは自己紹介と今野味噌醤油醸造店さんについてお聞きします。
私で6代目になりますね。今野味噌醤油醸造店の創業は1900年(明治33年)です。最初は味噌醤油じゃなくてではなく、酒と酢を売っていました。2代目から味噌の製造を始めて醤油は4代目から始めました。
スーパーなどで売っている一般的な味噌や醤油との違いや、こだわっている点はどういったところですか?
大手のメーカーさんは大量に作っているイメージがあるんですけど、自分たちの手を介して作っているのが一番大きいかなと思います。
手作りということですね。機械に頼らないのは何が良いのでしょうか?
目に見えない菌を扱うので、温度だったり湿度によって全然変わってくるんです。「熱い」とか「ちょっと元気が良すぎ」とか、そういうのを私たちが実際に触ったり温度計を使ったりして調整しています。そういう感覚なところで「これはちょっと冷やしてあげないと」とか、そういう温度管理などがすごく大変です。
大手メーカーさんなどは多分一律で機械で自動設定しているんでしょうけど、その方法では作れないものなのかなと。
手作りならでは。大切に育てられている醤油
基本的な質問ですが、醤油づくりはどれぐらい期間がかかるんですか?熟成させたりもするんでしょうか?
醤油は1年ですね。
もろみ、もろみというのは醤油の元なんですけど。最初大豆と小麦を合わせて、そこに菌を加えて麹を作るんです。麹を作ったらそれを木桶に入れて塩水を入れてあげて、そこで1年間かけて混ぜます。そうするとゆっくり発酵してそこから熟成して。それでもろみになるんです。
そういうところも大手さんは温度が比較的高いところで作るので、短期間で醤油にしちゃうんですけど、うちは最初からずっと一年を通して作っています。
いわゆる新米みたいな。そういう季節というのはいつ頃になるんですか?
仕込みは1月〜3月ぐらいまでの寒い時期にやります。いわゆる「寒仕込み」ですね。1年間分の仕込みを2〜3カ月でします。今弊社にある醤油は、2年目のもろみを使っています。
もろみのまま桶に入れて保管しておいて、搾ると醤油になるということですね。
そのもろみを搾った後のカスは何かに使うんですか?
もろみのカスはほとんど栄養もなく全然味気もないので通常は廃棄するのですが、弊社では高畠町の牛屋さんにエサに混ぜてもらっています。
SDGsですね!
今も樽の中にもろみの状態で、絞られるのを待っている醤油がいたりするということですね。
そうですね。その場合もずっと置いておくわけではなくて、2〜3日に1回かき混ぜたりするんですが、かき混ぜ方や温度によっても味が変わってきます。
メリットは雑菌が増えないということです。もろみの元になる麹を作るんですけど、醤油麹は納豆菌とか他の外部の菌が繁殖しちゃうと、簡単に負けちゃうんです。そうなると良い麹にならないので。弊社も今年一回ダメになって捨てました。
それくらい繊細なものなので、仕込みの時期は納豆とかは食べないようにしています。そういうふうに他の菌が影響して雑菌が出ないようにかなり気を付けています。
地元への想いが伝わる味の調整
美味いにつながるかどうかはまた別の話ですね。ただ醤油の麹は作りやすいという環境です。
醤油は大阪とかでイメージが変わったりしますよね。東北や南東北も地域性はありますか?
東北が全て一緒ではないですが、山形の方は甘み、旨みのある醤油が主流です。小豆島では無添加の本醸造をつくっている蔵元もありますね。
本醸造っていうのは、アミノ酸を入れないんです。アミノ酸の液というのがあって、もろみを搾った醤油とそれを加えて火入れ(殺菌)します。アミノ酸を入れているか入れていないかで本醸造か本醸造でないかが決まります。
今野味噌醤油醸造店さんもやろうと思えば本醸造も出せるんですか?
はい、出せます。ただ、米沢もラーメン屋さんが多いですよね。うちもラーメン屋さんなどに卸したりしているので、味が付いてる醤油の方がラーメンなども作りやすいんです。だから米沢の方では本醸造ではない醤油が主流ですね。
でも、やっぱり本醸造も作ってみたいなと思っていて、今新しく仕込みしてるのが本醸造の醤油なんです。来年か再来年くらいからしかできないんですけど、今の醤油とは別に何も加えない本醸造も作る予定です。
何も加えないとなると、味を安定させるのは難しいのでは?
そうですね。何も加えないので、麴作り・もろみの管理・火入れの管理によって大きく味が変わってくるので。味の安定は難しいです。
手放せなくなる「マルカワしょうゆ」の秘密
愛用されているお客様で、どのような感想をいただきますか?
うちは大豆の香りが強いかなと思いますね。居酒屋さんとかに卸していると「今野味噌醤油醸造店さんの醤油は美味い」と言ってくれるんですけど、私も他の醤油と比べると香りが違うなと思うんです。
それがいいという人もいますし、それが苦手だという人もまれにいます。日本酒でいうと飲みやすいようなフルーティーなものじゃなくて、昔からのガツンとくるような。辛口の感じなのかなと思ってます。
多いと思います。
あまり発信はしていないんですけど、「プレゼントで頂いた」という県外の方から電話があって、それからずっと取引させていただいています。そういう方は結構多いですね。そういう方々からお話を聞くと、「おたくの醤油を使ってから、他の醤油が食べれなくて」という声もあって、嬉しいなって思います。
どういった方に「マルカワしょうゆ」をオススメしたいですか?
刺身で使ってほしいなぁと思います。何か料理に加えてもいいんですけど、やっぱり最初は醤油の香りを感じて欲しいです。
原料から、大豆と小麦を作って仕込んで麹を作って醤油を作るというところは少ないんです。全国でも100軒ちょっとしかなくて。山形県は多いんですけど、それでも10軒ないぐらいだと思います。米沢でも元々もう1軒あったんですが辞めてしまったので、米沢では今野味噌醤油醸造店のみですね。他のところはもろみを搾ったものを仕入れて味付けするところが多いですが、一から作っているうちのようなところは本当に珍しいです。
それはすごく大変なんですが、やめたくないと思っています。仕込んで1年間みてというのはかなり力が要りますし大変ですが、その手間があるから差別化できると思っています。
一から仕込みをするようなところはどうして減ったんのでしょうか?手間がかかるからですか?
まずは(機械で仕込むのは)圧倒的に簡単だからだと思います。ほんとに簡単なんです。一方、手作業で仕込みをするというのは本当に大変で…。あとは圧搾機という機械があるのですが、大きさにもよりますが小さいものでも車が買える値段なんですよ。それで機械が古くなってくるともうやめちゃえっていう人が多いんですよね。でも、私はまだまだやめたくないので、これからも続けていこうと思います。
やはり伝統だと思います。どんどんそれ(手作業での仕込み)をする人が少なくなっている中で、私もそれで辞めてしまうのは簡単ですけど、そうしたら次の世代に残らない。醤油屋に生まれた以上、それは残したいなという思いがありますね。それは今後もずっとつなげていきたいです。
なるほど。ありがとうございました。早速私も家に帰って刺身に付けて味わおうと思います!